大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(う)2395号 判決

被告人 池田国男

〔抄 録〕

次に職権をもつて原判決の法令の適用の当否について調査するに、原判決は被告人の前科について(一)昭和二十四年三月十日東京地方裁判所において恐喝罪によつて懲役一年執行猶予四年の判決言渡を受け、昭和二十六年六月七日右執行猶予の言渡を取消され、昭和二十七年政令第百十八号によつて右懲役刑は九月に減軽せられて昭和二十九年二月四日その刑の執行を受け終り、(二)昭和二十六年一月二十四日東京地方裁判所において恐喝、窃盗罪により懲役二年六月未決勾留日数二百日算入(前記政令に依り懲役一年十月十五日に減軽)に処せられ、昭和二十八年二月四日右刑の執行を受け終つたものであるとの事実を認定し、その法律の適用の部において被告人の原判示第一の罪については右の(一)および(二)の前科と累犯の関係があるとして刑法第五十九条を適用し、また原判示第二および第三の罪についてはいずれも右の(一)の前科と累犯の関係があるとして同法第五十七条を適用し、それぞれ原判示のように累犯の加重をしているのであるが、原判決が前記前科関係の事実認定の証拠としている前科照会書および指紋照会書の記載によると、被告人は前記(二)の懲役二年六月の刑(指紋照会書に罪名を恐喝、窃盗、未決勾留日数の通算を二百一日と記載しているのは、それぞれ恐喝、詐欺および二百日の誤記と認める)については指紋照会書に赤インクで記載されているように、昭和二十七年六月二十一日その刑の執行を受け終り、引続いて前記(一)の懲役一年の刑の執行を受け同年十二月十七日仮出獄により出所したが、その刑については前記政令によつて懲役九月に減軽せられているので、昭和二十八年三月二十日の経過とともにその刑期を満了することになることは明らかである。従つて、本件犯罪事実中前記前科との関係において累犯加重の規定の適用があるものは、前記(一)の前科との関係において原判示第一の罪だけであるといわなければならないのに拘わらず、原判決が指紋照会書の記載を正確に検討しないで、前記(一)の刑については昭和二十九年二月四日、同(二)の刑については昭和二十八年二月四日にそれぞれその執行を受け終つたものと誤認した結果、原判示第一の罪については前記(一)および(二)の前科との間に累犯関係があるとして刑法第五十七条のほか同法第五十九条を適用し、また原判示第二および第三の罪については前記(一)の前科と累犯関係があるとして同法第五十七条を適用して累犯の加重をしたのは、法令の適用を誤つたものといわなければならない。

よつて、右法令適用の誤が判決に影響を及ぼすか否かについて判断するに、原判決が原判示第一の罪については再犯の規定を適用すべきであるに拘わらず、これを三犯として刑法第五十七条のほか同法第五十九条の規定を適用した点については、本犯罪は本来再犯として刑法第五十七条に従い刑の加重をせられるべき場合であるから、前記のように刑法第五十九条を適用しても、結局同法第五十七条に従い刑の加重をするに過ぎないから、その誤は何等判決に影響を及ぼさないというべきである。

次に原判決が不当に原判示第二および第三の罪について再犯加重の規定を適用している点であるが、累犯加重の規定の適用の誤は、特別な場合を除いて、処断刑に大きな影響を来たすものであるから、判決に影響を及ぼすものといわなければならない。しかしながら本件にあつては、原判示第二および第三の各所為は原判示第一の所為と併合罪の関係にあるところ、第一の罪についてのみ累犯加重の規定の適用があるから、第三の罪について原判決のとおり懲役刑を選択のうえ併合罪の加重をするにあたつては、第一の罪の刑が最も重いことになるので、その罪の刑に同法第十四条の制限内で法定の加重をした刑期範囲内で被告人を処断すべきであるのに拘わらず、原判決は原判示第二および第三の罪についても累犯加重の規定を適用した結果、第三の罪について懲役刑を選択したうえで、原判示第一乃至第三の各所為は併合罪の関係にありとしてその加重をするにあたつて、原判示第二の罪の刑が最も重いと判断し、その罪の刑に同法第十四条の制限内で法定の加重をした刑期範囲内で被告人を処断するに至つたのであるが、今この二個の処断刑を対比するに、原判示第一の罪と第二の罪とは共に刑法第二百四十九条第一項の恐喝罪であり、その処断刑も再犯加重の関係および併合罪の加重の関係において全く同一であつて、その間に何等軽重の差を認めない。このように、原判決には不当に累犯加重の規定を適用した違法があるが、その結果は何等処断刑に影響を来たさない特別な場合に属するのであつて、この点の誤もまた判決に影響を及ぼさないものといわねばならない。

以上説明したように原判決には法令の適用について誤があるが、その誤は判決に影響を及ぼさないから、原判決破棄の理由にはならない。

(滝沢 久永 八田)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!